会社の合併や会社分割、株式交換・株式移転といった組織再編は、事業承継やグループ再編、第二会社方式による事業再生など、中小企業の実務でも身近な選択肢になっています。しかし組織再編税制を活用する際には、「組織再編 行為計算否認」という言葉とともに語られる法人税法132条の2(組織再編成に係る行為又は計算の否認規定)の存在を無視できません。この規定は「不当に法人税の負担を減少させる結果となると認められるもの」という抽象的な要件で否認の可否を判断するため、射程がどこまで及ぶのか、実務家の間でも常に議論の的になってきました。

当事務所(アスミル会計相続パートナーズ・玉木歩税理士事務所)代表・玉木歩が東北学院大学大学院経営学研究科経営学専攻修士課程で執筆した修士論文「組織再編成に係る行為又は計算の否認規定に関する一考察」(令和元年度)は、この法人税法132条の2の沿革・趣旨、同族会社の行為計算否認規定である法人税法132条との比較、同条の適用の可否が初めて司法判断で争われたヤフー事件・IDCF事件を検討し、筆者自身の見解として同条の在り方に一石を投じています。本記事は、この81ページに及ぶ論文の内容を要約・解説するものです。論文全文は末尾からPDFでご覧いただけます。

組織再編税制とは何か|合併・会社分割・株式交換・株式移転の基本

組織再編税制とは、合併、会社分割、株式交換・株式移転など、会社法第5編に定められた典型的な組織再編行為を対象に、その課税関係を定めた税制です。組織再編成には、既存の会社同士が一つになる「吸収型」(吸収合併・吸収分割)と、新たに会社を設立する「新設型」(新設合併・新設分割)があり、代表的な手法は次のとおりです。

  • 合併:消滅する法人(被合併法人)の権利義務の全部を、存続する法人(合併法人)に承継させる手法。既存の法人同士で行う吸収合併と、新設する法人に承継させる新設合併があります。
  • 会社分割:分割法人が事業に関する権利義務の全部又は一部を、他の法人(分割承継法人)に承継させる手法。既存の法人が承継する吸収分割と、新設する法人が承継する新設分割があり、対価を分割法人が受け取る「分社型分割」(いわゆる分社化に近い手法)と、対価を分割法人の株主が受け取る「分割型分割」に区分されます。
  • 株式交換:ある会社の発行済株式の全部を他の会社に取得させ、自社を完全子会社化する手法。
  • 株式移転:ある会社の発行済株式の全部を新設する会社に取得させ、完全持株会社を新設する手法。

適格要件の3類型と非適格組織再編成の課税関係

組織再編税制の中核は「適格要件」です。組織再編成を行った場合、原則として資産等は時価で移転したものとして譲渡損益を認識しますが、一定の適格要件を満たす場合には、簿価で移転したものとして譲渡損益の計上が繰り延べられます。適格要件を満たす適格組織再編成は、次の3類型に大別されます。

  • 企業グループ内組織再編成:完全支配関係(100%)または支配関係(50%超100%未満)にある企業グループ内で行う組織再編成。移転資産等に対する支配の継続に着目し、課税を繰り延べます。
  • 共同事業を行う場合の組織再編成:企業グループを超えて共同事業を営むために行う組織再編成で、対価として取得した株式の継続保有等の要件を満たす場合。
  • 独立して事業を行う場合の組織再編成:支配株主のいない法人が行う単独新設分割型分割や株式分配など。

これに対し、適格要件を満たさない非適格組織再編成では、資産等は時価で移転したものとして譲渡損益が認識され、その時点で課税関係が生じます。適格・非適格のいずれに該当するかは任意で選べるものではなく、要件を満たせば強制的に簿価引継ぎとなる強行規定である点にも注意が必要です。

法人税法132条の2(組織再編成に係る行為又は計算の否認)とは

規定の沿革と趣旨

組織再編税制は、平成13年度税制改正において、経済のグローバル化に対応し、企業の競争力確保と柔軟な組織再編成を後押しする目的で創設されました。しかし組織再編成の形態や方法は多様かつ複雑であるため、これを利用した租税回避行為が行われる懸念があり、繰越欠損金の利用制限などの個別的否認規定に加えて、これらをすり抜ける租税回避行為を防止するための包括的否認規定として、同時に法人税法132条の2(組織再編成に係る行為又は計算の否認)が創設されました。同条の趣旨は、平成13年度の税制改正解説において「組織再編税制に係る組織再編形態や方法は相当に多様にあり、組織再編成を利用する複雑、かつ、巧妙な租税回避行為が増加するおそれがあるため、個別否認規定が設けられたが、その行為の形態や方法が相当に多様なものと考えられることから、個別否認規定に加え、包括的な組織再編成に係る租税回避防止規定が設けられた」と説明されています。

創設後も、平成18年度・19年度・22年度・29年度の各税制改正で用語の整備や対象法人の範囲の明確化が行われていますが、条文の基本的な内容や趣旨に変化はないとされています。なお平成19年度改正では、条文の表現が「これらの法人」から「その法人」に変更されており、この文言の解釈が後述するヤフー事件で大きな争点の一つになりました。

「不当」という不確定概念の問題

法人税法132条の2は「その法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるとき」に該当行為又は計算を否認できると定めていますが、「不当」が何を意味するかは条文上明らかではありません。このような不確定概念は、課税当局の法令解釈や税務執行に恣意性が入り込む余地を生みやすく、租税法律主義(日本国憲法第84条)の見地から存在意義が問われてきました。組織再編税制がそもそも「税負担を軽減してでも柔軟な組織再編成を後押しする」ための税制でありながら、その利用自体を否認しうる包括的否認規定を置くことは、制度の趣旨と矛盾するのではないかという指摘が、税理士・研究者の間で繰り返しなされています。

租税回避行為・節税行為・脱税行為はいずれも税法上に定義された用語ではなく、学説上も一義的な定義は定まっていません。もっとも、租税回避行為は「異常ないし変則的な法形式を選択し、通常の法形式と同一の経済的効果を実現しながら租税負担を減少させる行為」という点で共通の理解があり、これに対し脱税行為は事実の隠ぺい・仮装を伴う違法行為、節税行為は租税法規が予定する法形式の範囲内で税負担を減らす合法的行為とされています。ただし実際の事案では、納税者が「節税行為」と主張し、課税庁が「租税回避行為」と主張して見解が対立するケースが多く、両者の境界線を明確に引くことは容易ではありません。

法人税法132条(同族会社の行為計算否認)との比較

法人税法132条の2は、大正12年の所得税法改正に端を発する同族会社の行為計算否認規定(法人税法132条)と同じ「包括的否認規定」に分類されますが、その対象・要件・射程には違いがあります。法132条は、法人とその構成員(株主)との間に対立関係が乏しい同族会社という「法人の属性」に着目した規定であるのに対し、法132条の2は組織再編成という「行為の属性」に着目した規定である点が、両者の本質的な違いです。

比較項目法人税法132条(同族会社の行為計算否認)法人税法132条の2(組織再編成に係る行為又は計算の否認)
①行為同族会社の行為組織再編行為
②計算同族会社が行った取引によって生じた計算組織再編行為によって生じた計算
③対象者の範囲同族会社組織再編行為に関連する法人
④不当性要件(私的経済取引として異常・変則的か)必要必要
④不当性要件(租税回避行為が主たる目的か)唯一の判断基準とはならない必要
④不当性要件(趣旨目的に反するか)不要必要

この表が示すとおり、法132条は同族会社が行った異常な取引について経済的合理性の欠如(経済的合理性基準)を中心に判断されるのに対し、法132条の2は組織再編税制の各個別規定を「租税回避の手段として濫用」したかどうか(後述する租税法規濫用基準)が中心的な判断軸になる点で、実務上の判断枠組みが異なります。この違いが決定的な形で示されたのが、次章で解説するヤフー事件・IDCF事件です。

ヤフー事件(最高裁平成28年2月29日)と行為計算否認の2要件

事案の概要

ヤフー株式会社は、ソフトバンク株式会社の完全子会社であったソフトバンクIDCソリューションズ株式会社(IDCS)の発行済株式の全部を譲り受けたのち、平成21年3月30日、ヤフーを合併法人、IDCSを被合併法人とする吸収合併を行いました。ヤフーは、この合併により引き継いだIDCSの未処理欠損金額(約542億円)を自社の欠損金額とみなして法人税の申告に反映させましたが、課税庁は、本件買収・合併に至る一連の行為が租税回避を目的とした異常ないし変則的なものであるとして、法人税法132条の2に基づき更正処分を行い、ヤフーがその取消しを求めて争いました。

本件の経緯を時系列で見ると、ソフトバンクからヤフーへの買収提案(平成20年11月)に続き、IDCSの臨時株主総会でヤフー代表者がIDCSの取締役副社長に無報酬・非常勤で選任されるという行為が行われ(同年12月)、その後にIDCSの株式譲渡、吸収合併(平成21年3月30日)という順序で組織再編成が進められました。この「取締役副社長への就任」が、被合併法人の未処理欠損金の引継ぎに必要な「みなし共同事業要件」のうち「特定役員引継要件」を形式的に満たすための行為だったのではないかが、大きな争点となりました。

争点と最高裁が示した2要件

本件の中心的な争点は、法人税法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」(不当性要件)をどう解釈するかでした。東京地裁(平成26年3月18日)、東京高裁(平成26年11月5日)はいずれも課税庁の主張を採用してヤフー側の請求を棄却し、最高裁(第一小法廷・平成28年2月29日)も上告を棄却して確定しています。

最高裁は、法人税法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」とは、法人の行為又は計算が組織再編税制に係る各規定を「租税回避の手段として濫用」することにより法人税の負担を減少させるものをいうとしたうえで、その濫用の有無の判断にあたって、次の2つの観点を考慮すべきであるとしました(いわゆる2要件)。

  • ①不自然性の要件:当該法人の行為又は計算が、通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり、実態とは乖離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか。
  • ②事業目的等の要件:税負担の減少以外に、そのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか。

そのうえで最高裁は、これらの事情を考慮したうえで、当該行為又は計算が組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって、組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否か、という観点から判断するのが相当であると判示しました。この判断枠組みは「租税法規濫用基準」と呼ばれ、従来、法人税法132条の解釈で用いられてきた「異常ないし変則的な行為か」「租税回避以外の合理的な事業目的があるか」という経済的合理性基準と重なる部分がありつつも、より組織再編税制の趣旨・目的に照らした判断を求める点で、新たな基準を示したものと位置づけられています。

東京高裁は、本件副社長就任について「控訴人の法人税の負担を減少させるという税務上の効果を発生させること以外に、事業上の必要があるとは認められず、経済的な行動としていかにも不自然・不合理なものと認めざるを得ない」と指摘し、特定役員引継要件という形式的な要件を満たしていても、実質を伴わない場合には否認の対象となり得ることを示しました。

IDCF事件|ヤフー事件との異同

事案の概要

IDCF事件は、ヤフー事件と一連の組織再編成から生じた別の事件です。IDCフロンティア(IDCF)は、ソフトバンクの完全子会社であったIDCSからの新設分割(分社型分割)によって設立されました。その後、IDCSはヤフーに対してIDCF株式の全部を譲渡し、ソフトバンクもヤフーに対してIDCSの株式全部を譲渡、最終的にヤフーがIDCSを吸収合併しています。IDCFは、この新設分割が非適格分割に該当するとして資産調整勘定を計上し、その一部を損金に算入して申告しましたが、課税庁は、分割時点で株式譲渡が見込まれていたことを理由に非適格分割としたうえで、資産調整勘定の計上・償却を目的とした異常ないし変則的な行為であるとして、法人税法132条の2に基づき更正処分を行い、IDCFがその取消しを求めました。

本件も東京地裁(平成26年3月18日)、東京高裁(平成27年1月15日)でIDCF側が敗訴し、最高裁(第二小法廷・平成28年2月29日)で上告が棄却されて確定しています。

判旨の要点とヤフー事件との異同

最高裁は、ヤフー事件と同じ「租税法規濫用基準」(①不自然性の要件、②事業目的等の要件)を踏まえたうえで、本件計画を前提とする分割は「平成22年3月期以降は損金に算入することができなくなるC社の未処理欠損金額約100億円を上告人の資産調整勘定の金額に転化させ、上告人においてこれを以後60か月にわたり償却し得るものとするため、本来必要のない譲渡を介在させることにより、実質的には適格分割というべきものを形式的に非適格分割とするべく企図されたものといわざるを得ず、明らかに不自然なものであり、税負担の減少以外にその合理的な理由となる事業目的等を見いだすことはできない」と判示し、法132条の2にいう「不当」に該当すると結論づけました。

ヤフー事件が「未処理欠損金額の引継ぎ(適格合併の作出)」を問題としたのに対し、IDCF事件は「資産調整勘定の計上(あえて非適格分割とする適格外し)」を問題とした点が異なりますが、両事件とも、①一連の組織再編成の中に本来不要な行為(ヤフー事件では取締役副社長への就任、IDCF事件では株式譲渡)が介在していたこと、②その行為の主たる目的が税負担の軽減以外に見いだせなかったことが、最高裁が「不当」と判断する決め手となっています。また、両事件はいずれも同一の一連の組織再編成計画から生じたものであり、司法判断としても足並みをそろえて課税庁勝訴・納税者敗訴という結果に終わっています。

繰越欠損金の引継ぎ・第二会社方式など実務で否認リスクが議論される類型

組織再編税制の創設当初から、租税回避行為の典型例として、次のような類型が指摘されてきました(平成13年版改正税法のすべて)。

  • 繰越欠損金や含み損のある会社を買収し、その繰越欠損金や含み損を利用するために組織再編成を行う類型
  • 複数の組織再編成を段階的に組み合わせることで、課税を受けることなく実質的な資産譲渡・株式譲渡を行う類型
  • 相手先法人の税額控除枠や各種実積率を利用する目的で組織再編成を行う類型
  • 株式の譲渡損を計上したり、株式の評価を下げるために分割等を行う類型

このうち繰越欠損金の引継ぎについては、法人税法57条3項・4項において、企業グループ内組織再編成の適格合併等の場合、支配関係が生じてから5年を経過していないと、みなし共同事業要件を満たさない限り引継ぎ・使用が制限されるという個別的否認規定が置かれています。もっとも、この5年という形式的な期間要件をクリアしさえすれば否認されにくいという指摘がある一方、ヤフー事件のように、みなし共同事業要件(特定役員引継要件)を形式的に満たしていても、実質を伴わないと判断されれば法132条の2により否認され得ることが最高裁判決で示された点は、実務上重要な意味を持ちます。

また、いわゆる第二会社方式(採算部門を会社分割等で新会社に切り出し、不採算部門を旧会社に残して整理する事業再生手法)についても、会社分割を用いる以上、組織再編税制の適格要件や個別的否認規定(繰越欠損金の利用制限、特定資産譲渡等損失額の損金不算入など)の対象になり得るほか、包括的否認規定である法132条の2の射程からも完全に自由ではないと考えられます。事業再生の必要性や採算部門・不採算部門の切り分けの合理性など、税負担の軽減以外の事業目的を具体的に説明できる状態にしておくことが重要です。

実務上の留意点

ヤフー事件・IDCF事件の最高裁判決を踏まえると、組織再編成を検討する納税者にとっては、次のような実務対応が重要になると考えられます。

  • 事業目的の記録化:なぜその組織再編成の手法・順序・タイミングを選んだのか、税負担の軽減以外の事業目的(シナジー効果、スケールメリット、事業再生の必要性等)を具体的に整理し、書面で残しておくこと。
  • 稟議書・取締役会議事録の整備:役員人事や株式譲渡など組織再編成に関連する意思決定について、事業上の必要性が分かる稟議書・議事録を作成し、保存しておくこと。ヤフー事件では、取締役副社長への就任について事業上の必要性を裏付ける客観的な事実(実際の職務執行の有無、期間、権限の内容等)が厳しく審査されました。
  • 組織再編成全体のタイムラインの整理:一連の行為が短期間に形式要件を満たすためだけに行われたと評価されないよう、各ステップの実施時期・理由を時系列で整理しておくこと。IDCF事件では、株式譲渡から吸収合併までの期間の短さ(完全支配関係の切断が約2か月にとどまったこと)が「実質的な支配の継続」の認定に影響しました。
  • 形式的要件の充足だけに頼らないこと:みなし共同事業要件や完全支配関係継続要件などの形式的な適格要件を満たしていても、それだけで法132条の2の適用を免れるとは限らない点に留意し、実態を伴った組織再編成を心がけること。
  • 事前照会の活用:複雑な組織再編成や否認リスクが懸念される取引については、実行前に税務署の文書回答手続(事前照会)等を活用し、課税上の取扱いを確認することも選択肢になります。

論文の紹介と結論の要旨|筆者は「法132条の2は廃止すべき」と主張

玉木歩税理士事務所代表・玉木歩の修士論文「組織再編成に係る行為又は計算の否認規定に関する一考察」(東北学院大学大学院経営学研究科経営学専攻修士課程・令和元年度)は、第1章・第2章で組織再編税制の内容と沿革を確認したうえで、第3章で法人税法132条の2の沿革・趣旨と、同族会社の行為計算否認規定である法人税法132条との比較検討を行い、第4章でヤフー事件・IDCF事件を詳細に検討しています。

終章では、法132条と法132条の2はいずれも「法人税の負担を不当に減少させる」という同じ文言を用いていながら、実際の司法判断では、法132条が「経済的合理性基準」、法132条の2が「租税法規濫用基準」という異なる解釈枠組みで運用されている実態を指摘し、これは同一文言に対する二種類の法令解釈が併存する望ましくない状態であるとしています。そのうえで、日本国憲法第84条が定める租税法律主義(特に課税要件明確主義・課税要件法定主義)の観点から、「不当」という不確定概念を用いた包括的否認規定を置くことは、課税当局に事実上の白紙委任を与えるに等しく、望ましくないと論じています。

筆者は終章において、次の2つの理由から法人税法132条の2は廃止すべきであるとの見解を明示しています。第一に、租税法律主義の観点から不確定概念を用いることは望ましくないこと。第二に、組織再編税制がそもそも企業の競争力強化のために柔軟な組織再編成を後押しする目的で創設された制度であるにもかかわらず、射程の不明確な同条の存在が、かえって企業が組織再編税制を活用する際の心理的な足枷(ためらいの要因)になっているという点です。そして、組織再編成を利用した租税回避行為への対応は、課税要件が明確な個別的否認規定によって行うべきであり、法律制定が市場の変化に迅速に対応できない部分は、行政内部の命令である税務通達を有効活用することで、法的安定性と予測可能性を確保すべきであると結論づけています。

なお、この論文は令和元年度に提出されたものであり、その後の税制改正の内容(令和2年度以降の各年度税制改正)は反映されていません。本記事の内容も論文の記述時点の情報に基づいています。組織再編税制や関連規定は改正が重ねられていますので、実際に組織再編成を検討される際は、最新の法令・通達を必ず確認してください。

まとめ

合併や会社分割などの組織再編成を行う際、適格要件を満たして課税の繰延べを受けられたとしても、その組織再編成の過程に税負担の軽減以外の合理的な事業目的が見いだせない場合には、法人税法132条の2(組織再編成に係る行為又は計算の否認)により否認されるリスクが残ります。最高裁がヤフー事件・IDCF事件(いずれも平成28年2月29日判決)で示した①不自然性、②事業目的等の有無という2つの観点は、今後も組織再編成の適否を検討するうえでの重要な判断軸になると考えられます。一方で、この規定の射程の広さや不確定概念「不当」の解釈をめぐっては、租税法律主義の観点から問題視する見解も根強く、玉木歩税理士事務所代表・玉木歩の修士論文でも「同条は廃止すべき」との立場が示されています。

組織再編成は事業承継や事業再生、グループ経営の効率化など、中小企業にとっても有効な選択肢ですが、否認リスクを避けるためには、手法の選択・実行のタイミング・意思決定プロセスのすべてにおいて、事業目的を具体的に説明できる状態を整えておくことが欠かせません。個別の組織再編成が否認リスクを伴うかどうかの判断には高度な専門知識を要しますので、実行前に必ず税理士等の専門家にご相談ください。

本記事は、玉木歩税理士事務所代表・玉木歩の修士論文「組織再編成に係る行為又は計算の否認規定に関する一考察」(東北学院大学大学院経営学研究科経営学専攻修士課程・令和元年度、全81ページ)の内容を要約・紹介したものです。判例研究や個別規定の詳細な解説など、より詳しい内容にご関心のある方は、ぜひ論文全文をご覧ください。

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組織再編成に係る行為又は計算の否認規定に関する一考察(PDF)

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【免責事項】本記事は、記事公開時点の法令等に基づく一般的な情報提供であり、個別の税務相談ではありません。税制は毎年改正されるため、ご覧いただく時点の法令と内容が異なる場合があります。最新の情報は国税庁ホームページ等でもご確認ください。

本記事は一般的な解説を目的としたものであり、財産評価や相続税・贈与税の申告の根拠資料としてご利用いただくことはできません。また、税務調査や税務署への説明において、本記事を根拠として援用することもできません。本記事の記載に基づきお客様ご自身が判断・実行された結果について、当事務所は責任を負いかねます。実際の財産評価および申告にあたっては個別の資料に基づく検討が必要ですので、必ず税理士にご依頼またはご相談ください。